赤ん坊を流産してしまった夫婦と、何度でも夫婦の元へ戻ってくる猫の物語です。
40にして赤ん坊を流産してしまった信枝と夫の藤冶、そこへ一匹の猫が現れるところから物語は始まります。
どこかへ猫を捨ててきても家に戻ってくる小さな子猫。
そして家で飼うことになります。
伸枝が先に逝き、藤治と猫の二人だけの生活。やがて猫も静かにこの世を去り、生き物を飼うということの悲しい別れの定めを読者に教えてくれます。
夫婦と子猫との出会い
妻の信枝と夫の藤冶。妻が40にして身ごもるけど高齢の為か流産してしまう。悲しみに暮れる毎日にあるとき子猫が庭先にやってくる。
激しく泣いているその猫を見ると、亡くなった赤ん坊とリンクしているような感覚に襲われ、不思議な感情を抱く伸枝だったが、猫を遠くへ捨ててくる。
捨てても何度も家まで戻ってくる子猫に、やがて初めは夫が飼おうといいだし、家で飼われることになり「モン」と名付けられるのでした。
生き物を飼うということは悲しい別れがあること
いつの間にか藤治は60半ばになり、モンは15歳になっていました。伸枝は7年前にすでに他界していました。
それから5年の歳月が経ち、ある時モンは真っ赤なおしっこをするようになります。
トイレの砂箱に通うようになり、獣医に診てもらう日々が続きます。
弱っていく中で獣医は3つの提案をします。
可能な治療をして出来るだけ延命するか、最低限の治療で様子を見ていくか、このまま自然に任せて好きなようにさせるか。
この3つの中で弱っていくモンを藤治は見ながら、モンが喜ぶことをしてあげて、自然に任せようと決めます。
ついに藤治は、堪えきれずに獣医の前で泣いてしまうこともありました。
自然に任せようと決めてから2週間が過ぎ、水を飲んで必死に砂箱に入ろうとするモンの姿を見て藤治はこれで良かったのかと迷います。治療した方がいいのか?死に向かっているモンをもう一度生の方へ振り向かせるのは残酷ではないのか?
葛藤しながらも、モンをさすってやれば気持ちよくごろごろと泣き、呼べば反応が返ってきます。
まるでモンが藤治の逝き先を示しているように、死への手本を見せているような行動をします。
ここでも藤治はモンの様子を見て、まだ逝くな、もう十分だと気持ちが混乱します。
モンはずいぶん前から藤治が準備できるのを待っています。しかし藤治にとっては準備などできるはずもありません。
しかしモンは最後まで飼い主の声に反応しようと意識をしっぽに集中させて、まるでそれだけのために命を繋いでいるように見えます。
そうしてついにモンは藤治の声に反応しなくなり、しっぽも動かなくなります。最後まで必死に飼い主と共に生きたモンを藤治は褒め称え、その琥珀の瞳をそっと閉じてあげるのでした。
本の題名の猫成りとは猫が喉をゴロゴロと鳴らすことであり、生き物との悲しい別れがあるのを実感させてくれます。