実話小説 風になった伝書猫

この本は1冊の手作本から始まった物語です。

これは1匹の猫に命の尊さを教わったミュージシャンである著者の田村元が、どうしてもこの想いを伝えたいと出版を目指します。何社も訪れて出版の話を持ち込みますが、35社もの出版社へかけあっても、どこからも相手にされず断られるばかりでした。

それならば自分で本を作って売ろうと、自費出版でもない、まさしく手作りの本を制作し多摩川沿いの本屋に営業を始めます。

やがて、本の内容に共感した書店が登場し、ついに出版に協力する出版社が現れ、やがて全国出版へと発展しました。

捨て猫との出会いが彼を変えていく

物語は多摩川の土手での捨て猫との出会いから進展していくのです。

彼は妻とときどき多摩川に野良猫の母娘のローラとエムに会いに訪れることがある。しかしある時また土手へ向かうと、そこにはダンボールに捨てられた3匹の子猫を発見してしまいます。

排泄も自分で出来ないほどまだ生まれたばかりで幼い子猫たちは、放っておけば死んでしまうのは確実でした。

彼は家に連れて行って育てたいけれども賃貸なので飼うことはできない。かといって頼れる人も思いつかず、どうしようか迷っていたときに思いついたのが、いつも会う母猫のローラでした。

ローラの元へ子猫を連れて行き、育ててくれと願うと、ローラは子猫を一匹また一匹と連れて帰り、血の繋がらない子猫を育ててくれたのでした。

こうして、捨て猫を育ててくれたのは、親でもなく人間でもなく、他人の猫であり、それが著者に命の大切さを改めて思い出させ、同時に昔の同棲していた彼女や上京してミュージシャンを目指していたころを思い出させもしたのでした。

猫をキーワードにして著者の思い出が蘇る

逞しく生きる猫の姿は、同時に著者が若い頃上京してミュージシャンを目指していたこと、そして現在は何か世間に対して白けてロックに対しても冷めていた状況で、再びロック魂を呼び起こしたのでした。

さらには、若い頃同棲していた女性のことをも思い出させました。

その頃同棲していた彼女とは些細なことで喧嘩をしてしまい、別々に暮らすことになりますが、著者の部屋を訪れてはもの言いたげな様子で見ている猫がいたのです。

そんなことがあって少ししてから、彼女とはよりを戻して同棲生活を再び始めることになりますが、戻ってきた彼女は、「その猫は私の伝書猫よ。あなたは帰ってきたもの」とまるで伝書鳩のような猫だと言ったのでした。

こうして捨て猫を育てた他人の母猫と昔の彼女がリンクしたのです。

昔の同棲していた彼女を巡る体験、諦めずに1冊の手作りの本から始まったこの物語は、猫好きな人にも、素敵な出会いを探している人にも是非おすすめの一冊です。